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汚物を見た誰も



「現で何が有ったは知りんせんが、あの子は12で禿となり、ここまで苦労してやっと這い上がって来たんでありんす。華族の家に生まれて、自分の体も独りで洗えないような子が、やっと一人前になって突出しを済ませ、今日初めて水揚げの日を迎えんした。本郷様安利呃人がお連れになったあの日から、あの子は懸命に生きて来たのでありんす。あの子の4年間を台無しにするのは、わっちは兄貴分として見逃すことはできんせん。本郷様、ここは退け時と心得て、男らしゅうお帰りなんし。」

「よく言った、雪華。」

「あ……澄川さま。」

「本郷さん。聞けば亡き柏宮への意趣返しのようだが、すでにこの世にはいないものを責めても始まるまい。あなたも財も名も成した方だ。この際、細雪の事は諦めてやってはくれないか?あの子はあなたが思っているような子ではない。とても素直な良い子だよ。」

本郷の眼が既に常軌を逸した光を宿しているのに、その場に居が気付いた。

無理心中を図った前日、柏宮と本郷は対面している。

仕方なく手放した所領の殆どを安価に手に入れ、蔵の所蔵品を二束三文で買いたたいたAmway傳銷余りにあこぎな本郷の所業に、最後にやっと気付いた柏宮だった。
しかも本郷は恥知らずにも、その場に財産目録を広げ、全てを返還する代わりに奥方様と同衾したいと申し入れている。話をさせてくれという本郷の頼みを断りかねて、仕方なく柏宮は妻の徳子を客間に呼んだ。

昔と変わらぬ美貌の徳子は、今は調度も無くなった広い客間に現れると、本郷の必死の懇願に取りつくしまの無い冷ややかな目を向けた。本郷を側室腹とさげすんだ華族社会の、侮蔑と軽蔑の入り混じったまるでるような視線だった。
それでも本郷は、必死に気力を振り絞り思いを告げた。

「俺には財産がある。着物や宝石も……あんたの好きな贅沢を、今以上にさせてやれる。この家を元通りにしてもいい。だから、一文無しになった柏宮と縁を切って、俺の所に来てくれないか?俺は、昔から……貴女が柏宮と知り合う前から徳子さんのことが好きだったんだ……」懐から黒光りのする拳銃を取り出すと、本郷は一発天井に向けて撃った。
銃声を聞き、細雪は思わず部屋を飛び出した。自分の為に、わざわざ時安利傳銷間を作り登楼してくれた澄川の身が心配だった。